株式会社マイクロニティは、後継者不在や経営者の高齢化で存続の危機にある中小ソフトウェア企業をM&Aで承継し、AIを掛け合わせて再成長させるAI駆動型ソフトウェア事業承継プラットフォーム「Micronity」を運営しています。2025年の設立からおよそ1年で累計6社をグループ化し、5年で50社、10年で100社を目指しています。
今回は、事業承継とAIをどう組み合わせてソフトウェアを再成長させているのか、その具体的な進め方と現場のリアルについて、株式会社マイクロニティのAI専門組織「M-Lab(エムラボ)」の小森谷一生氏、齋藤圭吾氏にお話を伺いました。
小森谷一生氏 プロフィール

株式会社マイクロニティ 情報セキュリティ室 室長。AI推進グループ(M-Lab)の責任者を兼ねる。M&Aで承継したグループ各社へのAI実装を統括し、各社のセキュリティ水準に合わせたAI利用ガイドラインの策定や、AIのセキュリティ面を担う。M&Aのデューデリジェンスにも参加し、IT観点から企業価値評価を行う。
齋藤圭吾氏 プロフィール

株式会社マイクロニティ 情報セキュリティ室 AI推進グループ AI Builder。承継した各社の業務分析からAIによる業務改善、自動化、社員へのAIトレーニングまでを手がける。
Micronity(AI駆動型ソフトウェア事業承継プラットフォーム)

マイクロニティのAI駆動型ソフトウェア事業承継プラットフォームは、後継者不足に悩むソフトウェア企業をM&Aで承継し、AIの活用により事業価値を向上させる独自のビジネスモデルです。開発の生産性向上や業務プロセスの効率化といったAI実装に加え、人事・経理・法務などのバックオフィス機能を含む経営資源とノウハウを提供し、承継企業の成長を支えるエコシステムを構築しています。
2025年4月設立ながら累計6社をグループに迎えており、ソフトウェア企業群として、日本初のデカコーン企業を目指しています。
事業承継とAIを組み合わせる理由
どんな社会課題を背景にこの事業を立ち上げたのでしょうか。マイクロニティの立ち位置もあわせて教えてください。
小森谷氏「日本の人手不足や後継者不足は社会全体の課題になっています。数字で言うと、国内企業の後継者不在率は50.1%にのぼります(帝国データバンク『全国「後継者不在率」動向調査(2025年)』)。しかも、こうした課題を抱えるのは経営が苦しい会社だけではなく、2023年に廃業した中小企業のおよそ半数は、黒字経営のまま姿を消しています。これが日本の現在地です。
そして、これは町工場のような製造業だけの話ではありません。IT業界も同じ状況です。1990年ごろ、ITの勃興とともに創業した社長たちが、いままさに同じように高齢化を迎えています。
私たちはこの社会課題を解決するために、AI駆動型ソフトウェア事業承継プラットフォームを昨年立ち上げました。AIと相性の良い中小バーティカルソフトウェア企業を対象にM&Aを行い、AIを軸に再成長を支援していく仕組みです。マイクロニティは承継した企業の後方支援という位置づけで、財務経理や人事労務、開発や営業を支えます。企業を売却して利益を得るイグジットを前提とせず、承継した企業を永続的に保有し、ソフトウェア企業群としてのプラットフォームを築いていくことを目指しています。」
ソフトウェアの古い技術が次の世代に引き継がれず残ってしまうのは、なぜなのでしょうか。その承継にAIを掛け合わせる相性の良さも教えてください。
小森谷氏「技術の移り変わりが激しいからです。古いけれども普遍的で、いまも現役で使われている技術はたくさんあります。ところが、そうした技術を引き継ぐ人がいません。
たとえばインターネット以前の組み込みシステムのプログラムは、いまも現場で動き続けています。それなのに、インターネット、スマートフォン、AIとトレンドが移り変わるなかで、若い人の関心は新しい技術へ向かい、古い技術は次の世代に引き継がれないまま残ってしまいました。
ここにAIとの親和性があります。引き継ぐ人がいない技術も、長年積み上げてきた中小企業独自のノウハウも、地域に根付いた顧客基盤も、いまはその企業の中に埋もれた資産です。AIを組み合わせれば、これらを掘り起こして新しいビジネス価値に変えられます。
しかも、世の中の多くのAI導入がまだ実証実験にとどまるなか、事業承継では実際に事業を回している環境にAIを本番実装できます。この点でも、事業承継とAIは非常に相性が良いと考えています。」

承継した企業をAIで再成長させる4つの軸
承継した企業を実際にどうやってAIで再成長させるのでしょうか。具体的な進め方を教えてください。
小森谷氏「具体的な進め方は、大きく4つの軸に整理できます。
一つ目が、開発領域でのAI活用です。各社の開発体制やシステムの状況を見たうえで、AI駆動開発への移行やレガシーシステムの刷新など、効果の高い打ち手を選んで生産性を高めていきます。
二つ目が、企業に眠っているナレッジの資産化です。長年の事業で培われた知見は豊富にあるのに、その多くはメールのやり取りや個人の頭の中など、整理されていない形で散在しています。これをAIで取り出してデータベース化すれば、個人に閉じていた知見がチームのナレッジとして共有され、AI自身もそのデータベースを参照して働けるようになります。
三つ目が、AIワークフローによる業務効率化です。M&Aの完了後、最初に行うのは業務分析です。ヒアリングなどを通じて課題の所在を洗い出し、AIに任せる価値が高い業務はどこかを見極めたうえで、人事や営業といった領域の業務をワークフロー化・自動化していきます。
四つ目が、社員へのAIトレーニングです。ここまでの説明で、「AIで人が要らなくなるのでは」と身構える方もいますが、私たちが目指しているのはその逆です。独自のノウハウを持つ社員ほど価値が高く、その社員がAIを使いこなせるようになることで、生産性はさらに伸びていきます。そこで、トレーニングによって社員がAIを日常業務で使いこなせるようになるためのスキルを身につけてもらい、専門知識とAIを掛け合わせた新しい価値創出を後押ししています。」

承継を重ねるほどAI自体が賢くなっていく、というプラットフォーム構想も掲げています。これはどういう仕組みなのでしょうか。
小森谷氏「承継した企業にはまずアセスメントを行い、先ほどの4つの軸を実行し、AI駆動の経営サイクルを回していきます。これを繰り返すうちに、経営そのものがAIを前提とした形へ変わっていきます。
そのなかでAIは、繰り返し行う作業を自動でプログラム化し、スキルとして蓄積していきます。さらにM&Aを重ねれば、金融や医療など多様な業種の企業がグループに加わり、業種ごとのスキルが積み上がる。最終的には、コンプライアンスや会計基準のようにグループ全体で使えるスキルがAIに蓄積されていく構想です。この蓄積が次の承継の立ち上がりを速くする。これが私たちの考えるAI駆動型事業承継モデルです。」
現場のマインドチェンジと、対照的な2つの事例
承継した企業の社員にAIを浸透させるのは大変そうです。トレーニングの進め方と、現場の反応を教えてください。
小森谷氏「AIにまだ触れたことのない人も多いので、その方たちへのトレーニングや啓発は丁寧に行っています。中には、AIは本当に安全なのか、信頼できるのかという不安を持つ方もいます。この不安自体はもっともなもので、だからこそ、何をAIに任せてよくて何は任せないのか、その線引きをガイドラインとして示すところから始めています。
現場の反応は、会社によって本当にバラバラです。60歳前後の方がいきなりAIでプログラムを作り始めて『めちゃくちゃ便利になった』と言ってくれる会社もあります。一方で、AIの安全性や信頼性を慎重に見極めたいという方もいて、積極的に受け入れる人と距離を置く人が、どの会社にも入り混じっているのです。おもしろいのは、そこに法則性がないことです。業種や年齢に関係なく、思いがけない人が夢中になったりする。AIの捉え方に属性は関係ないのだと感じています。
全体としてはポジティブに受け止める人が多いです。ただ、その中でも実際に使い込む人となると絞られてきます。段階としては、いままで自分ができなかったことをAIにやらせる人、自分の業務の延長でAIを使う人、そこまで使わない人の三つに分かれます。一番上の層はまだ少数ですが、その人たちは本当に新しいスキルを獲得しています。この層が各社に一人でもいると社内の見え方が変わるので、まずはここを増やし、その働き方を業務の延長で使う層に広げていくのが、いまのトレーニングの狙いです。」
AIが入ると人はいらなくなるのでは、という不安の声にはどう答えているのでしょうか。承継先との関係づくりで大切にしていることも教えてください。
小森谷氏「承継企業での説明会で、従業員の方から『人がいらなくなるんですか』と質問を受けたことは実際にあります。私たちの答えは明確で、AIと一緒に成長していきましょう、と伝えています。そもそも私たちのモデルは、社員の持つノウハウがあって初めて成立します。人を減らすためではなく、その方々の知見にAIを掛け合わせるために承継しています。だからこそ、効果的なトレーニングの提供などに力を入れています。」
齋藤氏「いま私が担当している会社でも、業務のやり方を変えることには慎重な反応もあるかと想像していたのですが、皆さん積極的にAIを活用し業務改善に取り組んでくださっています。」
小森谷氏「とはいえ、人と人との関係ですから、それをやったからといってすぐにうまくいくわけではありません。『こういうふうにやろう』と伝えて、すぐに理解されるわけでもない。だからこそ、関係づくりそのものを重要視しています。マイクロニティはM&Aポリシーの1つに「既存のカルチャーを尊重すること」を掲げていますが、そのことはディールの時点で経営者の方にきちんと説明しています。」
承継がスムーズに行われているとのことですが、譲渡後に退任されるケースもあるのでしょうか。
小森谷氏「昨年グループインしたある会社は、少人数で運営されており、全員がご高齢のためM&Aを機に退任されるという状況でした。
現在は、取締役だった2名には顧問として残っていただき、マイクロニティから事業責任者とAIエンジニアが入り、相談しながら引き継ぎを進めています。事業責任者は販売パートナーやお客様との連携を引き継ぎ、エンジニアはソースコードや過去の問い合わせ対応の履歴をAIに学習させて、問い合わせの1次回答や調査をAIが行う仕組みを作っています。
常駐の人員がいない体制ですから、開発も問い合わせ対応もAIが支える形を目指しています。具体的には、事業責任者とエンジニアがそれぞれ10%ほどの稼働で回る状態です。これはこのケース特有の、極端に振り切った形です。人が担い続けるのは、お客様や販売パートナーとの対面での面談と、製品品質の最終確認。ここは今後も人が責任を持ち、それ以外をどこまでAIで支えられるか、AIに特化した事業スタイルとして挑戦しています。」

社員が多く残る会社では、どのように進めているのでしょうか。
小森谷氏「例えば、内製開発を行う会社では、AI駆動開発への切り替えに取り組んでいます。」
齋藤氏「この会社での私の役割は、AIを業務にどう組み込むかを具体的に提案することです。AIを実務で使うのはこれからという段階でしたので、まず実業務での活用方法を実演し、こう使えばここまでできる、これは自動化できる、という手応えを共有しました。いまは現場からも活用のアイデアが出てくるようになっています。
新しいクラウド版のプロダクト開発では、元々要件整理→仕様確定→DB設計・インフラ設計→開発というウォーターフォール型の手法で進められていました。しかし、要件をまとめるのは長年業務に携わっている非エンジニアの方々で、業務知識という点では非常に厚い。一方で、その知識を開発用の仕様書という形式に翻訳する工程に、どうしても時間がかかっていました。そこで、文書で伝えきろうとするのをやめることを提案しました。非エンジニアがまとめた要件からAIでプロトタイプを構築して、非エンジニアにテストをしてもらいながら、足りない要件を補強していくという手順にしました。」
小森谷氏「開発側も、AIでざっと作ったものが本当に使えるかをテストして精度を上げていくというAI駆動型の開発スタイルに前向きに取り組んでくれています。一方で、個人情報を含むデータなど、AIを活用できないところもあります。そのような、人が時間を割く必要がある取り組みに、AI活用で削減された工数を充てています。」
一方で、まだうまく馴染んでいない部分もあるかと思います。現場への浸透で、いま一番の課題はどこですか。
齋藤氏「AI活用の効果が一番大きく出るのは、業務フローそのものを見直せたときです。ただ、フローを組み替えた先にどんな景色があるかは、実際に体験してみないとイメージしづらいものです。だからこそ、まずは実務の中で小さく試して、こう変えればここまでできる、という手応えを一緒に確かめるところから始めています。先ほどの開発の例も、仕様書を書く工程をAIに手伝わせるところから、要件をもとにプロトタイプを作る形へと、実際に動かしながら移っていきました。この転換をどう一緒に見つけていくかが、私たちの仕事の面白いところだと思っています。」
小森谷氏「なかにはAI活用の前提となるデータ化が進んでおらず、業務フローに紙を活用していることもあります。そういうところは、まずIT化から始めています。」
承継企業を支える体制とAI
設立から約1年で6社をM&Aしていますが、そのスピード感で現場が疲弊することはないのでしょうか。
小森谷氏「課題がないと言えば嘘になります。承継した企業は医療もあれば建築もあり、業種は本当にバラバラで、専門性という点では共通していない部分もあります。そこを支えてくれているのが、まさにAIです。加えて、各社にはマイクロニティから事業責任者が入り、事業計画を実行する体制を取っています。事業経験の豊富なメンバーも増えてきているので、課題はありながらも、なんとか前へ進められているというのが正直なところです。
その事業責任者は、たとえば医療の会社だから医療の専門家でないと入れないかというと、まったくそんなことはありません。業界の専門家は、もともとその会社の中にいらっしゃるんです。それこそがその会社の価値です。
そこに、私たちが事業会社として培ってきた技術やノウハウを組み合わせ、さらにAIを掛け合わせます。承継企業の方々からすると、未知の技術が降ってくるような感覚だと思います。だからこそ、その効果を実感してもらえているのではないでしょうか。」
今後の展望
数値目標の先に、この事業でどんな未来を目指しているのでしょうか。小森谷さんご自身が感じている面白さもあわせて教えてください。
小森谷氏「会社としては、ソフトウェア企業群を作っていくこと、そして事業承継という日本の課題を解決していくことを使命としています。
個人的な話をすると、私は長く使われてきたソフトウェアが結構好きなんです。歴史が積み重なって手を入れるのが大変になっていても、それを必要としている人たちが確かにいる。そういうソフトと向き合うのは楽しいですし、そこにちょうどAIが出てきたのは非常に良い巡り合わせだと感じています。技術の継承が難しくなっていたソフトウェアを、AIの力で次の世代につなげられる。その手応えをとても楽しんでいます。」
多くのAI導入がPoC止まりになるなか、御社が実装まで進められるのはなぜでしょうか。
小森谷氏「私たちの場合は、実際に事業が動いている環境にAIを実装まで持ち込むことを必須としています。そこが大きな違いだと思います。
対象となる企業は、人手不足という課題を抱えています。人手が限られるなかで事業を続け、成長させていくうえで、AIの活用が必然的な選択肢になっている。課題と解決手段がかみ合っているんです。それも、実際にお客様がいて、日々サービスが動いている環境ですから、実験用の環境とは質が違います。なにより、私たちにとってAIは試すものではなく、ソフトウェアを承継し、事業を続けていくための手段です。承継した以上、実装して事業を回すところまでやり切るのは当然で、PoCで終わるという選択肢がそもそもないんです。」
株式会社マイクロニティの企業概要

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社マイクロニティ(Micronity Inc.) |
| 代表者 | 代表取締役 山﨑祐一郎 |
| 所在地 | 東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア |
| 設立 | 2025年4月 |
| 事業内容 | AI駆動型ソフトウェア事業承継プラットフォームの運営。ソフトウェアの企画・開発・運営・販売 |
| 公式サイト | https://micronity.com/ |
編集後記
事業承継やAI導入の支援と聞けば、転売や資産の切り出しを前提に買収を行うファンドや、助言を提供したうえで契約の終了とともに離れていくコンサルティング会社を思い浮かべる向きも少なくないでしょう。しかし、マイクロニティが描く構図は、そのいずれとも一線を画すものです。
マイクロニティは、売却による短期的な出口をあらかじめ想定せず、M&A後も継続して保有する方針を掲げています。文化や雇用の維持を重んじ、無理な人事再編や事業再編に踏み込まない姿勢もまた、その特徴のひとつです。これは、会社を引き継ぐ側として、売り主が最も憂慮しやすい点に先んじて応える構えであるといえます。
注目したいのは、こうした方針が、承継企業の協力を自然と引き出す仕組みとして機能している点です。単に助言を差し出すのではなく、自ら資本を投じて事業そのものを引き受けることで、利害は重なりやすくなります。その結果、承継を終えたのちも信頼を損なうことなく、円滑な協力の体制を築くことが可能となるのです。
古いソフトウェアをAIの力で再構築する試みもまた、技術力のみで成し得るものではありません。現場に根づいた業務知識、既存の顧客との関係、そして長年にわたり蓄積された運用の知見。これらを確かに受け継ぐためには、承継企業の経営陣や従業員との信頼関係が欠かせない前提となります。マイクロニティのモデルは、AIを単なる技術の導入にとどめることなく、事業承継の仕組みと結びつけることによって、実装へと歩を進めるための土台を整えている。そこに、同社ならではの独自性があります。
AI企業の動向を注視する読者にとっても、同社の歩みは示唆に富むものでしょう。これからのAI活用においては、技術そのものの優位性のみならず、その技術をいかに現場へ根づかせ、継続的に価値へと転じていくか、その事業設計こそが問われることになるはずです。





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