デジタル化・AI導入補助金は、中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際に、費用の一部を国が補助してくれる制度です。もともと「IT導入補助金」という名称で運営されていましたが、2026年度(令和7年度補正予算事業)から現在の名称に変更されました。
対象となるのは、業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、サイバーセキュリティ対策、インボイス制度への対応などに役立つソフトウェアやクラウドサービスです。補助額は1事業者あたり最大450万円で、補助率は申請枠や事業者の規模によって異なります。
デジタル化・AI導入補助金、2026年度の変更点
2026年度における最大の変更点は、制度名に「AI」が加わったことに象徴されるように、AI活用が審査の重要なテーマとなった点です。具体的には、ITツールの登録時に「AI機能の有無」が明確に区分されるようになりました。補助金の公式サイト上で、生成AIや機械学習などの機能を搭載しているかどうかがアイコンで表示される仕組みに変わっています。これにより、申請者がAI対応ツールを選びやすくなりました。
もうひとつ注意したいのは、2回目以降の申請に対する要件の追加です。IT導入補助金2022〜2025の期間に交付決定を受けた事業者が再度申請する場合、3年間の事業計画の策定と効果報告が義務づけられました。具体的には、1人あたりの給与支給総額の増加や生産性向上の数値目標を盛り込んだ計画が必要です。未達成や報告未提出の場合は、補助金の全部または一部が返還対象になります。過去に補助金を受けた企業は、再申請のハードルが上がっている点を把握しておきましょう。
なお、補助率や補助額の基本的な枠組みは、旧制度であるIT導入補助金2025と大きく変わっていません。基本の補助率は1/2ですが、小規模事業者は一定の要件を満たすことで最大4/5まで引き上げが可能です。予算規模も令和7年度補正予算で3,400億円が計上されており、前年度と同水準が確保されています。
AI搭載ツールに使える申請枠と補助額
デジタル化・AI導入補助金には複数の申請枠があり、導入したいツールや目的に応じて選択します。AI搭載ツールの導入に活用しやすいのは「通常枠」ですが、インボイス対応ソフトにAI機能が搭載されているケースなど、他の枠でもAIツールが対象になる場合があります。ここでは、各申請枠の特徴と補助額・補助率を整理します。
| 項目 | 通常枠 | インボイス枠 (インボイス対応類型) |
セキュリティ対策 推進枠 |
複数者連携 デジタル化・AI導入枠 |
|---|---|---|---|---|
| 主な目的 | 業務効率化・DX推進の ためのITツール導入 |
インボイス制度対応の 会計・受発注・決済ソフト導入 |
サイバーセキュリティ 対策の強化 |
10者以上の連携による 地域・業界全体のDX推進 |
| 補助額 | 5万円〜450万円 | ソフト:最大350万円 ハードウェア: PC等 最大10万円 レジ等 最大20万円 |
5万円〜100万円 | 通常枠に準じた 補助額+事務費・ 専門家経費あり |
| 補助率 | 1/2以内 (条件を満たせば2/3以内) |
中小企業:3/4以内 (50万円以下の部分) 小規模事業者:4/5以内 (50万円以下の部分) 50万円超の部分:2/3以内 |
1/2以内 | 通常枠より引き上げ |
| 対象経費 | ソフトウェア購入費 クラウド利用料(最大2年分) 導入関連費・保守費 |
ソフトウェア購入費 クラウド利用料 PC・タブレット レジ・券売機 |
セキュリティサービス 利用料(最大2年分) |
ITツール導入費 コーディネート費 外部専門家への謝金 |
| ハードウェア | 対象外 | 対象(ソフトと セットで申請) |
対象外 | 条件付きで対象 |
| AI搭載ツールとの 相性 |
高い。AI機能付き 業務ソフト全般に対応 |
AI機能付き会計・ 受発注ソフトが対象 |
AI活用型セキュリティ サービスが対象 |
複数社でAIツールを 共同導入する場合に有効 |
上の表のとおり、AI搭載ツールの導入で最も使いやすいのは通常枠です。通常枠は、1〜3つの業務プロセスに対応するA類型(補助額5万円〜150万円未満)と、4つ以上の業務プロセスに対応するB類型(補助額150万円〜450万円)に分かれています。B類型は補助額が大きい一方、賃上げ目標の達成が求められるため、まずはA類型から検討するのが現実的です。
インボイス枠は、会計・受発注・決済の機能を持つソフトウェアに限定されますが、PCやタブレットなどのハードウェアもあわせて申請できる点が特徴です。AI機能を搭載した会計ソフトを導入しつつ、業務用端末も補助対象にしたい場合には有力な選択肢になります。なお、通常枠とインボイス枠は同時に申請できますが、後から提出したほうは審査上の減点対象となるため、優先順位を考えて申請しましょう。
補助対象となるAIツールの具体例
デジタル化・AI導入補助金で導入できるツールは、事務局に登録された「ITツール」に限られます。一般的な市販ソフトをそのまま購入しても補助対象にはなりません。IT導入支援事業者が事前にツール登録を行い、公式サイトの検索画面で確認できるものだけが申請可能です。2026年度からはAI機能の有無がアイコンで表示されるようになったため、AI搭載ツールを探しやすくなっています。
補助対象になりやすいAIツールの分野としては、まず会計・経理業務が挙げられます。AIによる自動仕訳や領収書の読み取り(AI-OCR)機能を備えた会計ソフトは、多くのIT導入支援事業者が登録しています。手入力の手間を減らし、仕訳ミスの削減にもつながるため、バックオフィスの効率化を考える企業に適しています。
次に、受発注管理や在庫管理の分野です。AIが需要を予測して適正在庫を算出したり、発注タイミングを自動で提案したりする機能を持つシステムがあります。小売業や卸売業など、在庫の過不足が売上や廃棄ロスに直結する業種では、導入効果を数値化しやすいでしょう。
さらに、顧客対応を効率化するAIチャットボットや、社内の問い合わせに自動回答するFAQシステムも対象となるケースがあります。たとえば、よくある質問への回答を自動化すれば、電話対応の件数が減り、従業員が本来の業務に集中できるようになります。このほか、勤怠管理システムや人事労務ソフトにAI機能が搭載されている製品も登録が進んでいます。
注意点として、生成AI単体のサブスクリプション契約(たとえば汎用的なAIチャットサービスの月額利用料のみ)は、業務プロセスとの紐づけがないと補助対象外になる可能性があります。あくまで「自社の業務課題を解決するためのITツール」として登録されたソフトウェアやサービスが対象です。導入を検討する際は、IT導入支援事業者に相談し、補助対象かどうかを事前に確認しておくことが大切です。
申請の流れと必要な事前準備
デジタル化・AI導入補助金の申請は、企業単独ではなく、IT導入支援事業者と共同で行います。ツールの選定から申請書類の作成、導入後の効果報告まで、一連のプロセスを支援事業者と二人三脚で進める仕組みです。ここでは、申請開始前に済ませておくべき準備と、実際の申請フローを順番に説明します。
まず、申請前に必ず取得しておく必要があるのが「gBizIDプライム」のアカウントです。gBizIDは、複数の行政サービスを1つのアカウントで利用できる認証システムで、補助金の申請時に必須となります。取得にはオンライン申請と書類審査があり、発行まで数週間かかることもあるため、早めの準備が重要です。
あわせて、「SECURITY ACTION」の自己宣言も済ませておきましょう。これは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する制度で、企業が情報セキュリティ対策に取り組むことを自ら宣言するものです。デジタル化・AI導入補助金の申請には、「一つ星」または「二つ星」の宣言が必須要件となっています。宣言IDの取得には申し込みから1週間ほどかかります。
事前準備が整ったら、次の流れで申請を進めます。まず、IT導入支援事業者を選び、自社の課題やツール導入の目的を相談します。次に、事業者と一緒に導入するITツールを選定し、事業計画を策定します。その後、申請マイページから交付申請を提出し、事務局の審査を経て交付決定を受けます。交付決定後にツールの契約・導入を行い、導入完了後に事業実績報告を提出する流れです。
ここで気をつけたいのは、交付決定前にツールを契約・購入してしまうと、補助対象外になるという点です。たとえば、2つのツールをまとめて申請していた場合、1つでも先に契約してしまうと、もう1つのツールも含めて補助が受けられなくなります。「先に使い始めたい」という気持ちは分かりますが、必ず交付決定の通知を受けてから契約を進めましょう。
通常枠の場合は「みらデジ経営チェック」の実施も必須要件です。これは、自社のデジタル化の現状を診断するオンラインツールで、申請前に完了しておく必要があります。インボイス枠やセキュリティ対策推進枠では加点項目にとどまりますが、やっておいて損はありません。
採択率を上げるポイントと注意点
デジタル化・AI導入補助金は、申請すれば必ず採択されるわけではありません。旧制度のIT導入補助金2025では、通常枠の採択率が約50%、インボイス枠(インボイス対応類型)が約55%でした。およそ2件に1件は不採択になる計算です。限られた予算枠の中で採択を勝ち取るには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。
最も重要なのは、事業計画の具体性です。「業務を効率化したい」という漠然とした目的ではなく、「月間の請求書処理に○時間かかっている作業を、AI-OCR付き会計ソフトの導入で○時間に短縮する」といった数値目標を盛り込みましょう。生産性向上率3%以上の計画が求められており、この向上率自体が審査の重要な評価ポイントになります。
2026年度はAI活用への加点が強化されているため、AI機能を搭載したツールを選ぶことが採択に有利に働きます。ただし、AIツールであれば何でも良いわけではありません。自社の課題とAI機能がどう結びつくのかを、事業計画書の中で論理的に説明することが求められます。「AIを使えば便利になる」ではなく、「どの業務のどの工程でAI機能が効果を発揮するか」を具体的に記載しましょう。
賃上げ計画による加点も見逃せません。給与支給総額の増加を計画に盛り込むと審査上の加点が得られます。ただし、過去に賃上げ計画で加点を受けて採択されたにもかかわらず要件を達成できなかった場合は、今回の申請で減点されます。無理のない範囲で、実現可能な計画を立てることが大切です。
注意点として、過去の採択歴による減点措置があります。IT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者は、審査上の減点対象です。また、過去に導入したソフトウェアと同じ業務プロセスのツールを再度申請する場合、プロセスが完全に一致していると不採択になります。2回目以降の申請では、前回とは異なる業務領域での活用を検討するほうが安全です。
最後に、IT導入支援事業者の選び方も採択率に影響します。支援事業者によって、事業計画の作成ノウハウや申請書類のクオリティに差があります。候補となる事業者には過去の採択実績を確認し、自社の業種や導入したいツールとの相性を見極めましょう。公募締切日の直前はシステムが混雑しやすいため、余裕を持ったスケジュールで進めることも成功の鍵です。
まとめ:AI導入を補助金で実現するために
デジタル化・AI導入補助金は、中小企業がAI搭載のITツールを導入する際のコスト負担を軽減してくれる制度です。2026年度からはAI活用が制度の中心テーマとなり、AI機能付きツールの選びやすさや審査上の優遇が強化されました。通常枠を中心に、自社の業務課題に合った申請枠を選ぶことが第一歩です。
申請にあたっては、gBizIDプライムの取得やSECURITY ACTIONの宣言など、事前準備に時間がかかる項目があります。公募開始を待ってから動き始めると間に合わないケースも少なくありません。IT導入支援事業者の選定やツールの比較検討は、公募開始前に済ませておくのが理想です。2026年度の第1次公募は3月30日に受付が始まり、1次締切は5月12日が予定されています。スケジュールを逆算して、今から準備を進めてみてはいかがでしょうか。




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